果鈴版 大石兵六物語@
むかしむかし吉野原には(鹿児島市吉野町)キツネがたくさん住んでいました。
このキツネたち、我がもの顔で畑を荒らしたり、家中糞まみれにしたり、人を化かしたりとやりたい放題悪さして人々を困らせてはおもしろがっていました。
そんな8月も終わりに近いある日のことでした。
評判の暴れ者、吉野市助・大久保彦山坊・大川隼人之助が集まり、まだ明るいうちから酒盛りをしていました。
遅れて、大石兵六(おおいしひょうろく)が加わり、武勇伝に花を咲かせていました。
兵六は赤穂浪士の吉良低討ち入りで有名な大石内蔵助の子孫で血気盛んな若者でした。
だいぶ酔いもまわって来たころでした・・・
市助:「お主ら知ってるか?近頃、吉野原にキツネの化け物が出るそうじゃ」
隼人之助:「聞いたことあるぞ!馬糞団子や尿の酒を飲ませるんじゃろ?」
市助:「うんうん、そのあげく坊主頭にしてしまうという、噂じゃ」
彦山坊:「化け物が出るのは世の中が乱れているからじゃ」
隼人之助:「どうだ?わしらでキツネ退治しようではないか」
市助:「相手は妖術を使って化かすんじゃぞ?」
彦山坊:「そうだ、そうだ、化かされて丸坊主にされたらどうするんじゃ」
隼人之助:「だからみんなで行くんじゃ、4人全員化かされることはあるまい」
兵六:「おいおい!化け物退治に大勢でおしかけたという話は聞いたことがないぞ」
隼人之助:「相手はキツネの化け物じゃ、大勢で退治して何が悪い!!」
兵六:「薩摩隼人の名が泣くぞ!」
兵六:「おしっ!わしが今夜一人で退治してくれるわ」
市助:「やめとけ兵六、相手は妖術を使う化け物じゃ」
彦山坊:「そうだぞ兵六、いくらお主が剣の使い手でも妖術には勝てぬ」
隼人之助:「やめとけ兵六」
兵六:「わっははは!なぁーに妖術使ってもたかがキツネじゃ」
兵六:「わしの祖先は大石内蔵助だ、我が家に伝わる仇討ちの秘術で一匹残らず退治してやる」
とみんなが止めるのも聞かず兵六はキツネ退治に行くことになりました。
兵六は急いで家に帰り仏前のお供え飯で腹ごしらえをし、握り飯を作ってキツネ退治に出発しました。
時は子(ね)の刻(真夜中)九つ鐘がゴ〜ンゴ〜ンと鳴り出していました。
兵六の腰にはハガネを3枚合わせて作らせた名刀『波の平』を差し「吉野の化けギツネなど、恐れることなど全くない!ひと打ちに打ち倒してくれる」と吉野山の白銀坂を目指し、急いで出かけていきました。
この時の兵六は本当に勇ましく、堂々と歩いていました、その姿はまことに凛々しいものでした。