果鈴版 大石兵六物語B

兵六が太鼓橋を渡って坂の下までくると、野山いっぱいにキツネのかがり火が見えました。
「やい兵六、俺様は酒呑童子の次に有名でかっこいい茨木童子じゃ」
「お前のような半端者は俺様の指先でチョチョイッとまるめて一口に食べてやるぞ」と声がしました。
見ると、眼は鏡のようにギラギラとひかり、真っ赤に充血して、唇は醜く耳の下まで裂け、上下の歯は食い違い、髪はツンツンに逆立った恐ろしく不細工な三秒もアップに耐えられない顔の化け物でした。
化け物が兵六の首筋をひょいとつまみ上げようとして、その顔を兵六に近づけてきました。兵六はびっくりして
「助けてくれ、やめてくれ〜その顔を俺に近づけるな〜〜」とぶるぶる震えながら一目散に帯迫の方へ逃げました。

命からがら逃げのびた兵六の前に、今度は観音経を読みながら大山伏現れました。
鼻はピノキオのように高く、口はワニのように耳元まで裂け、目は一つ目の化け物が大声をあげ
「わしは重富一眼坊という山伏だ!」
「豚も牛も好きだが、中でも人の肉は大好物!頭からでも尻からでも食ってやろう」と近寄ってきました。
兵六はあまりの恐ろしさに、土手の下に落ちてしまいました、起き上がろうとするけれど腰が抜けて立ち上がれません。
そばにあった地蔵に
「お地蔵様、どうか、どうかお助けを」と一心不乱に祈りました。
すると不思議なことにこの大山伏が「お前は何故そんなに震えているのか」と急に優しくなりました。
しばらくして冷静さを取り戻し、キツネに化かされたと知った兵六は「さてはお前もキツネの化けた化け物だな!」と名刀『波の平』を降り抜き切りつけました。
しかしそれは石の地蔵だったのでバッと火花が散っただけでした。


さつま 


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