果鈴版 大石兵六物語C
やっとの思いで大山伏の一眼坊から命からがら逃げて助かった兵六は、ブルブル震えて石地蔵に一心不乱に祈ったことなど忘れてしまったように
「俺は薩摩の優れた勇者、俺にかなう者は誰もいない」と自惚れて鼻歌をうたって歩いていました。
葛掛原(くつかけばら)を通りかかったとき、二軒茶屋の茶屋女が二人現れました
オキタ:「これは兵六様ではありませんか?」
兵六:「どこかであったか?」
オキタ:「大石兵六様は薩摩一の優れた勇者と有名ですもの」
ヤマナミ:「こうしてお会いできましたのも不思議なご縁、それにここは有名な恋の山として知られております」
オキタ:「今夜はここで一緒に語り明かしましょう」
二人の女は兵六にすりより、茶屋の中へ連れて行こうとしました。
兵六も年頃の若者、綺麗な若い女性に誘われれば、鼻の下をデレ〜ンとのばしてホイホイとついて行きたくなります。
しかし世間の目を気にする兵六は「いやいや下手に女子(おなご)と長居して評判を落としてはつまらん。それにお主ら俺の好みの女子(おなご)じゃない、話してもつまらん」と言って通り過ぎようとしました。
オキタ:「ちょっと待ちな!田舎娘と馬鹿にするな!」
ヤマナミ:「好みじゃないから、話す気になれぬじゃと己の顔を鏡にうつしてよーく見て見ろ」
オキタ:「オニオコゼかチョウチンアンコウのような顔しやがって、生意気に好みなんか言うでない!!」と女たちをカンカンに怒らせてしまいました。
あっという間に首がにょろにょろと伸びて、ろくろ首の化け物が前と後ろから責めてきたからたまりません。
兵六は長くてにょろっとしたものが大の苦手だったのです。
「くっ来るな!あっちへ行けぇ〜俺に近づくな!!ギャァァァ」と涙を流し、腰は抜け、あまりの恐怖に声も出ないありさまでした。どうやってろくろ首の攻撃をかわし、逃れたのか兵六は全く覚えていませんでした。
必死に逃げのびた兵六の前に、持留山の木陰からまたしても化け物が躍り出てきました。
その化け物は直径が30cmちょっとの大きい眼が三つもありました。
「わしは三つ眼の旧猿坊という者だ。化け物世界で一山当てて、金の力で偉くなってのう、わははは!」
「大名たちより毎日山のように贈り物が届いて、蔵の中には金銀財宝がたまり放題でそりゃいい身分じゃ」
「この眼はな!銭眼と言われる三つ眼となり四方八方に眼を光らせているんじゃ」
「嘘・偽りの多い世の中、わしのような化け物まで羽振りが良いというわけじゃ。わははは」
「兵六、お前も貧乏侍でいるより、わしの弟子となり残りの一生を坊主として過ごすがよい」と兵六の襟首をつかんでぐいっと弓なりに引っ張られたからたまりません。
「ギャァァァァァ!やめてくれ〜」兵六は声を限りに泣き叫び、引き裂かれそうな痛みに耐え、ただただ一心不乱に祈りました。