果鈴版 大石兵六物語F

兵六に追いつめられたキツネは小松が原に逃げ込みました。
そしてあっという間に黒く輝く髪に菊と桔梗模様の着物を着た二人の美しい女に化けて出てきました。
髪には花かんざしと落葉の櫛をさし、それはそれは美しい女に見事な化けっぷりでした。
さすがの兵六もこの娘たちの美しさに迷わされ、ポッとなり・・・
『ちはやぶる神代も聞かず茅原にかかる千草の花もありとは』と歌なんぞのんきに詠みました。
しかし、ハッとして「こんな真夜中に、女が供を連れずに居るのはおかしい。またキツネの仕業に違いない」
そう思い腰の刀に手をかけ、いきなり一人の娘を押し倒し、細い腕をつかんでねじあげてしまいました。
女は泣きながら、「なんて酷い事をするのです?私どもがあなた様に何をしたというのです?」
「田舎娘だと馬鹿にしないでください」
「私どもは武家の娘で名は菊とこれは妹の桔梗と申します」
「帖佐の米山薬師に参っての帰り道、連れの者が重富で茶屋遊びを始めました」
「それゆえ、私どもは先に来ました。ここからは家も近いし、どうぞお許し下さい」
お菊は一生懸命頼みましたが、兵六は聞き入れなかったのです。
桔梗は、「姉さま、庄屋役所に知らせて、すぐ助けを呼んできます」と髪を振り乱して走っていきました。

しばらくすると、庄屋の牧野駒右衛門に化けたキツネが手下を連れて駆けつけてきました。
駒右衛門は怒りに顔を真っ赤にして兵六を怒鳴りつけました。
「夜中に人の娘を捕まえるなどとはどういうことだ!」
「このごろ吉野村で悪い評判が立っているのはお前の仕業だな!」
「名は何と言う?本当のことを白状しろ」と縄をかけようとしました。
しかし兵六は少しも臆することなく
「私は大石兵六という御城下の侍です」
「キツネを退治しようと一晩中苦労し、この女もキツネに違いないと思い捕まえました」
「・・が、キツネ違い、いやいや人違いでした。このとおりお許し下さい」と謝まりました。
しかし駒右衛門は全く聞きいれず、とうとう兵六を縛り上げてしまいました。

さつま 


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