果鈴版 大石兵六物語G

そこへ通りかかった心岳寺のキツネの化けた妖怪和尚が
「庄屋殿、お腹立ちはごもっとですが、見ればまだ二十にもならない小僧っ子」
「若気の過ちと今度までは許して下されぬか」
「今は泰平の世のためか、人々には思いやりがなく物を粗末する」
「そして自分の利益だけしか考えない奴らがおる」
「このような者こそ本当の罪人というものじゃ」
「この兵六も、心を改めれば心配もいらないじゃろ」
「わしは兵六の罪をとがめず、自分で反省するまで待ちたい。わしに預けて下され」
と静かに説かれたので、庄屋もしかたなく縄を解いてやりました。
兵六は、これもキツネの仕業とは夢にも思わず、ただ危い命を助けられた喜びでいっぱいでした。
そして和尚のあとに続き九曲り坂を下り心岳寺に入っていきました。
寺は人里から遠くはなれ、前には海が広がり、後は山がデェ〜ンとそびえ、大きな建物が縦横に並んでいました。
さっそく和尚は、小僧どもに兵六を風呂に入れて坊主にするように命じました。
風呂は五右衛門風呂にそっくりだったけれど、なんとそれは肥溜めでした。
化け物退治によってすっかり肉体的にも精神的にも疲れていた兵六は、湯とも水とも糞尿ともわからずに、口をすすぎ、嗽をしそれを誤って飲み、顔を何度も洗い、頭まで肥溜め風呂の中につかって上機嫌で鼻歌まで歌っていました。
兵六は体中に糞尿を塗りつけて、その姿はまるで芋田楽のようでした。
挙句には、頭の毛まで剃り落とされ、それは二目と見られぬ無残な姿にされてました・・・気の毒に。

再び妖怪和尚の元へ連れて行かれた兵六は、牛の小便の甘酒をたっぷり飲み、馬の糞団子を腹いっぱい食べました。
さらに「兵雲」となどという出家の名前までもらってすっかり感激してしまった兵六は涙をためて
「和尚様、本当に幾重にも感謝いたします」
「この上はこの寺の僧として修行を積んで恩返しをします」
「ご恩は万年までも忘れません」と約束しました。

やがて、小僧どもが堪え切れなくなってどっと大笑いしました。
はっ!と驚いて周りを見渡すと、和尚も小僧たちも立派な寺の建物も、すべて消え失せていました。
荒れた野原に兵六ただ一人ポツンと残され、吹き渡る風の音が聞えるばかりでした。
さすがの兵六も頭まで剃られ、糞尿を食べさせられたら泣くほかないでしょう。

さつま 


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