果鈴版 大石兵六物語I
兵六は帰る道々、昨夜の出来事を思い返しました。
一匹残らず退治してやると勇んでキツネ退治にやって来たが、吉野原のキツネどもに見事にだまされ。
キツネごときに一晩中苦しめられ、糞風呂に入り、坊主頭にされ、糞酒に糞団子を食べさせられるとは、なんとも情けないやら口惜しいやら、一生忘れられない一夜であったしみじみ思いました。
いつも自信に満ちた兵六には珍しく自らをあざける思いで、
『もののふのキツネ狩りして帰るさは ゆゆしく見える花坊主かな』
『月やあらぬ春や昔の春ならで 耳のあたりを元の毛にして』と歌を詠みながら帰ってきました。
すると松明を手にした、吉野市助・大久保彦山坊・大川隼人之助が迎えにやってきました。
「兵六、それが吉野原の妖怪キツネか?」
「おぉ〜!見事退治したんじゃな!手柄じゃ、出かしたぞ」
「さすが薩摩隼人じゃ!大石兵六じゃ}と駆け寄ってきました。
しかし坊主頭の青入道のようになった兵六を見ると、
「その頭はどうした」
「こんなことだろうとは思っていたが・・・」
「出かける前の威勢はどうした」と、どっと笑う声は谷間に響き渡るほどでした。
しかし、大石兵六まったくひるまず、
「諸君、そんなに笑うな!坊主にはなったが、ご覧の通り二匹の妖怪キツネを討ち取って帰ったぞ」
「この大石兵六の手柄をほめてもらいたい、あはははは!」とはばかるところはありませんでした。
「大石兵六夢物語」は1784年(天明4年 )毛利正直という人によって書かれた、鹿児島に伝わる代表的な物語です。
幼い頃父に語ってもらった「むかし話」をかず風にアレンジしてみました。
不出来な物を最後まで見ていただきありがとうございました。