果鈴版 神話A

迩迩芸命(ニニギノミコト)は早速、大山津見神(オオヤマツミノカミ)のところに行きました。
そして木花佐久夜姫(コノハナサクヤヒメ)とぜひ結婚させてほしいと申し出ました。
大山津見神は迩迩芸命からの申し出をたいへん喜びました。
そして大山津見神は、姉の岩長姫(イワナガヒメ)も一緒に迩迩芸命へ嫁がせました。
ところが、姉の岩長姫はとても醜かったので、驚いて腰を抜かしたった一日で帰してしまいました。
大山津見神はいいました。
「二人の娘をさしあげたのは、石長姫はどんな風雪でも岩のように迩迩芸命を守り、木花咲耶姫は子孫たちが、木の花が咲くように栄えるようにと思ったからです。木花佐久夜姫だけと結婚ということは迩迩芸命のお命は木の葉のようにもろくなるでしょう」といいました。
末永き幸せの願いが込められた岩長姫を邪険にしてしまったおかげで、迩迩芸命の子孫の寿命は、『この花のようにもろくはかないもの』になりました。

二人は舞敷野(もしきの)の笠狭宮(かささのみや)というところに新居を建て、やがてふたりはめでたく結婚しました。
しかし幸せは一夜の契りだけ、夜が明けると迩迩芸命は反乱部族の討伐に旅立っていきました。
数カ月が過ぎて、無事に帰還した迩迩芸命は愛妻の顔を見に真直ぐにいきました。
木花佐久夜姫が嬉しそうに言いました。
「私は迩迩芸命の子を身篭りました」
それを聞いた迩迩芸命は大変驚きました。
たった一夜の契りと長い不在の後の思いがけない知らせに、疑惑と嫉妬で心が張り裂けそうでした。
どうしても木花佐久夜姫の貞節を疑わずにはいられなかったのです。
「たった一夜で身篭ったのか?そんなはずはあるまい。これはほんとうに私の子なのか?どこぞの神の子であろう?」
「この子は迩迩芸命の子どもです」
木花佐久夜姫は思いもよらぬ迩迩芸命の疑いの言葉に悲しみと怒りでいっぱいになりました。
そして産屋(うぶや)に入った木花佐久夜姫は、出入り口を塞いで火を放ちました。
「もしも生まれてくる御子が迩迩芸命の御子でなければ、私も御子も焼け死ぬでしょう」自分と子どもの命をかけた潔白の証でした。
燃え盛る炎の中で火照命(ホデリノミコト・海幸彦)火須勢理命(ホスセリノミコト)火遠理命(ホオリノミコト・山幸彦)と呼ばれる三人の男子が無事に誕生しました。
火照命と火須勢理命の有名な物語(海幸彦・山幸彦)がありますが、それはまた気が向いたら書くことにします。


さつま

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